スピーカーシステムのネットワークの改善とそれらの考察

スピーカーシステムのネットワークの改善とそれらの考察_c0021859_15595958.jpg 改造に改造を重ねた自作スピーカー。
 ユニットはと言うと、ウーハーがPeerlessの830869にツイーターはDayton Audio のPT2C-8。ツィーターは元はAudaxのW034X0だったのを変更。
 ウーハーの後ろには5kgの錘を背負ってます。
 またはこの重さは約40kg。ウーハーのユニットの廻りに見えるフランジでこの40kgがウーハーにかかるような仕掛けになっています。
 特許出願中。
 ネットワークは12dB /octですが正相で接続。この効果は大きかった。

 ところで、スピーカーシステムのネットワークは、12dB/octだとクロスオーバー周波数でウーハー、ツイーターがそれぞれうまく音楽信号を分担し図のように電圧和特性は平坦に一致するわけです。
 また、位相がウーハー側は180度遅れ、ツイーター側は180度進んでしまうので、ツイーターを極性を反対にすると一致する。それが下の図。
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 これは連続正弦波を前提にしたもので、音楽でも長く続く音ならばこの通りになることもあるのだろうけど、ところが、音楽信号は刻一刻様々な音が飛びだし、変化をして長く続いた状態というのはあまりない。立ち上がりの早い音もあるわけです。で方形波を入れてみるとどうなるか。
 それが下の図。
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 図の赤線がツイーター、青線がウーハー。そして緑線が両方あわせた和特性。入力の方形波とは似ても似つかない波形になっている。
 これは、ツイーター側が位相が進み本来あるべき反応からやや早い反応になりつつ、電圧の下降が前のめりの波形になっていて、逆にウーハー側が位相が遅れるために緩慢な反応になるため。
 じつは、よくありがちなスピーカーシステムの12dB/octのネットワークはこんな反応をしていたわけです。
 マルチウエイの音が中域の張り出しがやや上品に、しっとり大人しく感じる原因がこのへんにあったのかも知れない。
 これ、MJ誌で安井先生が去年詳しく記事にしておいでの話。
 多くの2WAY以上のスピーカーはこんなふうにクロスオーバー付近では全然違う音を聴いていたんだというこの話、じつはこれ、いい音だと思って聴いていても全然違う音の波形を聴いていたんだという大変ゆゆしき事なのではないかと思うのです。

 それを改善する方法として安井先生が提唱をしている12dB正相型のネットワーク方式を去年このスピーカーに搭載した。
 波形の乱れる原因がツイーター側では俊敏な反応をして、ウーハー側では緩慢な反応をするのが原因だったので、ツイーター側をカットオフを低域側にずらし、ウーハー側を高域側にずらすことにより、およそ音圧を近似にすることが可能。
 但しその際は12dB/octであろうとも正相接続とする。
 その方形波のシミュレーションが下の図。赤線がツイーター、青線がウーハー。そして緑線がその和特性。
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 電圧和特性はこの下。
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 若干の乱れがあるのだけど、ほぼ良好な再現性になっている。
 その電圧特性の結果は、更にその下。電圧和特性で±1.5dB程度のうねりが出るのだけど、位相特性もおおむね良好なネットワークとなる。
 これはあくまでネットワークの特性で、実際音が出たときの位相のずれはユニットや箱などに依存します。
 システム全体はこの下。
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 低域でうねっているのは部屋の特性なので悪しからず。
 聴感上は大きな収穫で、メガネのレンズを拭き直したときのような爽快感が音楽から感じるのです。全体的なノイズレベルが下がったように感じるのはまるでアンプのグレードが一ランクも2ランクも上がったような感じで、音楽の荒々しさと躍動感が見違えて再現され、残響音を豊かに感じ臨場感が増して、そして更に嬉しいのは音楽が活き活きと踊り出したよう。
 ただ、このネットワーク、インピーダンスの補正回路は必須です。それもクロスオーバー付近はきちんと適切に処理されていることが前提です。
 実験で失敗する人は補正回路の設定がうまくいかないことが多いようです。
 12dB/octの通常のネットワークはこれほどまでに音質を変化させていたのだと言うことを実感したのでした。

 で、ここまで来るとタイムアライメントまで調整したくなるのは人情というもので、先ずは現状を測定。

 アンプをスピーカーに繋いだままスピーカーシステムのネットワークの端子と先ずはウーハーの端子にオシロのプルーヴを繋いでクロスオーバー周波数をトーンバーストで入れてみる。、次にツイーターの端子に繋いで同じように測定。
 それが写真の図。上がツイーター、下がウーハー。
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 単発サイン波という方法もよく知られた方法としてあるけど、トーンバーストの方がいろいろとわかることが多いと言う安井先生の指摘もあり、それで試しているわけだけど。波形の出始めが崩れるのは、ウーハーはネットワークを通すと位相が遅れて、ツイーター側が進むためと言う原因が大きいと思う。

 現状が12dB/octの通常の-6dBクロスのネットワークで、聴感上で位置を決めたもの。5㎝で決めてある。
 計算上では本当はもうあと3.5㎝前に出すべきなのだけど、聴いた感じはここが一番だった。そのままユニットの位置変更なしでこのネットワークで測定した結果なのです。
 プルーヴをユニット端子側の極性を逆にしてしまったため位相が反対になっているように見えるのはお許しを。

 波形を見るとツイーターの方が1/5波長ほど先に音が出ている。ということで、その分の位置の補正をしてみる。
 2000Hzの波長は340/2000=0.17ということで17㎝。といううことは17×1/5=3.4㎝ということになり、12dB/octのネットワークで180°分の位相のずれとほぼ一致する結果となる。その分のスペーサーを作ってウーハーを前に出してみた。
 その測定結果がどうも見つからないので掲載は見送るので悪しからずご容赦を。

 さてその聴感上は。
 明らかにこちらの方が奥行き感と分離がよいのです。響きは奥行きだけでなくスピーカーの上に、横に更に拡がり、そして中音の厚みが増して立ち上がりが鮮明で、スパーンと抜ける。何よりスピーカーから音が出ていないその感じが嬉しい。
 以前の12dB/octの通常の-6dBクロスのネットワークで、計算値よりも約3㎝後退したところの方が聴感上好ましく感じたのは、ネットワークによる歪みを何とか目立たなくしたその点であったわけでした。今回、このネットワークの導入によりその必要がなくなり、ほぼ計算値前後の、ユニットに起因するのかどうかわかりませんが若干の補正を必要とはするけど計算通りでよい結果が出せたというわけ。
 そして、歪み成分などにより打ち消し合うところが減った分音が開放的に自然に鳴るようになっている。まるでもぎたてのトマトをかじって、フレッシュな香りと酸味を感じながら「そうそう、トマトってこういう味だったよね」って感じ。

 ブルックナーの第5交響曲で、録音の評判が悪いEMIの国内盤、残響の豊かなドレスデンのルカ教会でヨッフム指揮のドレスデンのシュターツカペレの22型の弦の編成で、増管された3管編成の大オーケストラが4楽章の最後、ホルンとバストロンボーンが雄叫びを上げて、トランペットがクレッシェンドしながら上り詰める、その後に分厚いオーケストラがフォルテシモで雷のように轟く中で、最後の最後、フルートの澄んだ響きが大音響の中で密やかに残響を伴って上昇音型を奏でるところは、天使が空に昇ってゆくようで、ここはこうあるべきだったんだ。こうきこえるはずのところだったんだ!!。
 スクロバチェフスキの明らかに操作したような演奏ではなく、また、ブロムシュテットのゲヴァントハウス盤のように編成を現代風に刈り込んだわけでもなく、20世紀のあの当時の普通に演奏してこれがきこえる。

 これだよね、オーディオは。

by yurikamome122 | 2015-02-09 16:17 | オーディオ | Trackback | Comments(1)

Commented by 774Hz at 2016-12-19 16:25 x
初めまして。私もスピーカー自作を趣味として楽しんでいます。12dB正相型ネットワークなるものを試してみたいので計算式を教えて頂けませんでしょうか?
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