パワーアンプの製作
パワーアンプの製作を先ずは始めることにする。
先の考察で、いにしえの回路であるクロスシャントを基にしたと思われる金田式アンプの回路がどうも私には対称とは思えず、しかも思ったよりも歪み率が低くない。アンプで歪み率を0.数パーセント下げることにこだわるつもりは全くないのだけど(そんなこと言えば、スピーカーの歪みやフォノ・カートリッジの桁違いの歪みなどどうするのかと)ただ、対称を謳っているのであれば通常の回路よりも歪みが低くなってよいはずなのになっていないことに若干の疑問の余地を個人的には残すわけだ。
私は個人的見解として、斬新で独創的のように見えて、実はいにしえの回路をアンバランスでの転送に対応させるため、結果的に不完全になってしまったように感じなくもない。
対して、構造上、全く完全なコンプリメンタリーの素子を造るのは不可能と言うことは承知の上で、動作点での特性を厳選したコンプリメンタリー素子を採用し、上下対称で全く無理のない中で、幾つかのノウハウがさり気なく盛り込まれている安井式に私としては惹かれる。(音でも、私が聴く限り安井式の方が立ち上がりが鋭く新鮮で、遙かに豪快で率直で透明なリアリティーを持って鳴っていた。金田式は豪快に鳴っていて、それはそれで説得力があったのだけど、ただ何か作為的なものがあるように感じた)
そして、安井先生の回路がもうかれこれ数十年前から開回路特性の向上による音質に着目されていて、現在、それだけではなく、可聴帯域内の位相特性の向上に着目しておいでで、アンプの裸特性で20kHzでも位相のずれが十数度から数十度以内で収まっている。これの聴感上に及ぼす影響も体験してみたかったし、また電源まで含めてNON-NFBであることも興味があった。歪み率が若干なりとも金田式より劣って見えるのは、このNON-NFBであるが故というのはもちろん想像に難くないし、それでいてこの歪み率であれば、アンプそのものの素性は大変によく、NFBをかけて見れば見かけの諸特性はとても良くなることは明らかだと推察される。
あとは出力がどれだけあれば良いかなのだけど、1m離れたピアノの演奏の音量が大体70~100㏈と言われているので、リスニングポジションとスピーカーの距離が約2mくらいが普通ですか?。
とすると家のスピーカーの能率が約1Wで90㏈/mということは、0.3W~4W位と言うことになって、例えばクラシックのオーケストラの場合、最大で120㏈位ですか、ということは60W位必要で、実際のダイナミックレンジはもっと大きいでしょうからピークで100Wほしいと言うのもあながち闇雲な話ではないのだけど、市販のソースを聴く限りそんなものは存在しない。
第一、都会のど真ん中の共同住宅の自分の部屋でそんな大音量はあり得ないので、20Wもあれば全く充分という計算になる。
と言うわけで、安井式の制作に取りかかる事に決定。MJ2012年11月号、12月号掲載の40Wパワーアンプに決定。
パーツや基盤などは安井先生のオリジナルでは、既に手に入りにくいものもあり、安井先生のご協力をいただき完成。
中でも安井先生のアイディアで、パーツの方向性に言及するところがあり、その原因に抵抗のL分と電磁波の関係があり、その点の対策として抵抗などのパーツのシールドを勧めておいでで、正直言って、これにはシビれた。
安井式アンプは理研電具のリケノームを使っておいでで、(炭素皮膜抵抗を発明したのが理研を作った大河内博士と言うことはあまり有名ではないけど、炭素皮膜抵抗の本家本元が理研であって、その理研電具がこの抵抗を作らなくなったというのが残念なことだと思う。)それを1本1本銅箔で巻き、それにアルミ箔を被せてまき、更に熱収縮チューブで被覆する。銅箔にはアース用の線を半田付けしておく。
後で後悔するとイヤなので、一応信号が流れるだろうとおぼしきパーツは全てこのようにシールドし、しかも全部アースを落とした。確かにこれをやるとやらないでは大きな違いがあって、苦労は報われたのだけど、あまり楽しい作業ではなかった。
オリジナルと違うところは以下
1.電源トランスをオリジナルではEIコアであったのを、手持ちのトロイダルとカットコアに変更。
2.オリジナルで省略されていた電源フィルターを復活
3.信号系抵抗を全てシールド、アースに落とす
4.コンデンサを出力段を10000µFから手持ち全てを投入して22000µF×2=44000µFに増量
5.電源ケーブルをインレット使用
6.電源スイッチにサーキットブレーカを採用し、電源ヒューズを省略
と言うわけで、とりあえず完成にこぎ着けて、音出し。
こういう場合、直後の評価は全く当てにならないのだけど、低域は豊かになり伸びがある。
これから2週間のエージングを経て大きく変化をしたのは当然なのだけど、それまでメインだったナショナルセミコンダクタのLM3886のBTLアンプに比較する。
これは、音質の定評のあるこの素子を、できるだけ軽めの負帰還で動作させているもので、どうもこの3886は負帰還量によって大きく音が変化するようで、軽ければ軽いほど軽快かつ自然な、フレッシュな感じになる。通常の扱いやすいゲインにするための負帰還量では大人しめ活気のない音になってしまう。
そんなわけで、このアンプの負帰還量はゲインをパワーアンプとしては大きめ(大きすぎ?)の30㏈以上に設定してある。
このアンプと比較すると、音像のカチッとした感じは3886の方が感じるのだけど、いや、30分も聴いているとこの安井式アンプの方が音楽以外の(例えばホールトーンとか、会場のアンビエンスとか)がたくさんきこえるので、その中から音像をシャープに結ぶために控えめにきこえただけだった。
そして力強い拍手のリアリティーは見事、各会場のボリューム感を出しつつ拍手に包まれる感じが会場のライヴ感を感じさせる。この音が不自然だったりホワイトノイズのようだったり、子供の手のようだったりしてはいけない。個人的には再生音の評価ではこの拍手の音にはこだわりたい。
今回の安井式アンプは音像は確かに感じつつ、奥行きが全然違う。位相のずれを最小限にとどめた結果か。
更にこちらは正真正銘完全対称の回路である(と言っても、金田式とは全然音が違いますけど)YAMAHAのA-S1000と比べると、YAMAHAの方が更にハイスピードではあるのだけど、自然さでは圧倒的に安井式。NON-NFBの効果も大きいのではないか。
その音の違いの原因を探る事を、そして更にブラッシュアップをやってみたい。
by yurikamome122 | 2015-06-03 18:00 | オーディオ | Trackback | Comments(0)